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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)10523号 判決

原告

ソフイア・クレア・リー

ほか七名

被告

藤島実

ほか一名

主文

被告らは各自

原告ソフイア・クレア・リー、同ジヨセフイーヌ・エムバナーに対し各金二一万七〇六〇円

原告キヤロル・ブラウン、同マーチン・フイリツプ・ハルベルグに対し各金一〇万八五三〇円

原告セブ・ルフイオ、同イブ・サルター、同ヴアル・シー・ラフ、同イヴオンヌ・スローンに対し各金五万四二六五円

及び右各金員に対する昭和五一年一二月九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告ソフイア・クレア・リーに対し、金一三四三万九二三一円、原告キヤロル・ブラウンに対し、金一七一万九六一五円、原告マーチン・フイリツプ・ハルベルグに対し金一七一万九六一五円、原告ジヨセフイーヌ・エム・バナーに対し、金三四三万九二三一円、原告セブ・ルフイオに対し金八五万九八〇八円、原告イブ・サルターに対し金八五万九八〇八円、原告ヴアル・シー・ラフに対し金八五万九八〇八円、原告イヴオンヌ・スローンに対し金八五万九八〇八円及び右各金員に対する昭和五一年一二月九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

第一項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 被告藤島実は、昭和五〇年一一月二二日午後四時二五分ごろ、被告工藤幸一所有の貨物自動車(練馬四四に九八八、以下被告車という。)を運転して、東京都新宿区本塩町八番地先の交差点を市ケ谷方面から三栄町方面に向かつて右折するに際し、自車の右側にいた通行人にのみ気をとられて左側を歩行中の亡バイオレツト・ドリーン・ハルベルグ(当事六五歳、以下亡バイオレツトという。)に自車を衝突させて転倒させ、同女に左大腿骨転子間骨折等の傷害を与えた。

(二) 亡バイオレツトは直ちに都内千代田区麹町一丁目八番地米川外科医院に収容され、次いで新宿区中落合二丁目五番一号国際聖母病院に転院させられ、昭和五一年一月一三日一応同病院を退院して自宅療養をしていたが、同年三月中ごろから特に手が動かなくなり、体が弱り、同年五月二九日午後一時三〇分、右国際聖母病院において急性腎不全で死亡した。

(三) 右死亡の原因については、死亡診断書によれば、イ、直接死因急性腎不全、ロ、イの原因糖尿病性腎症、ハ、ロの原因糖尿病となつている。亡バイオレツトは二〇年間糖尿病を患つていたことは事実であるが、同女はインシユリン等を服用し、血糖量を調節しながらも元気で毎日アメリカ銀行東京支店に秘書として勤務していたもので、しかも右診断書によれば糖尿病性腎症の発病は死亡前四〇日で、明かに事故後の発病である。したがつて本件事故による受傷、それによる体力の衰弱、手術による衰弱、精神的動揺と苦痛、強い薬の投与等が糖尿病性腎症を惹き起す因子となつたことは疑いを容れず、同女の死亡と本件事故との間に因果関係があるというべきである。

2  責任原因

本件事故は、前記のように被告藤島実の前方不注視の過失によつて惹起したもので、また被告工藤幸一は被告車の所有者であるから、被告藤島実は民法七〇九条により、被告工藤幸一は自動車損害賠償保障法三条によりそれぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

3  亡バイオレツトと原告らの関係

(一) 亡バイオレツトは、一九一〇年(明治四三年)一〇月二五日中国において生れ、国籍はデンマークである。同女は結婚しておらず、したがつて子もなく、また両親は同女の死亡前既に死亡している。

(二) 原告ソフイア・クレア・リーは亡バイオレツトの長姉である。

(三) 原告キヤロル・ブラウン、同マーチン・フイリツプ・ハルベルグは、亡バイオレツトの長兄亡カール・ロルフ・ハルベルグの子で、亡バイオレツトのそれぞれ姪、甥にあたる。

(四) 原告ジヨセフイーヌ・エム・バナーは亡バイオレツトの次姉、原告ソフイア・クレア・リーの妹である。

(五) 原告セブ・ルフイオ、同イブ・サルター、同ヴアル・シー・ラフ、同イヴオンヌ・スローンはいずれも、亡バイオレツトの三姉、亡セシリア・ルフイオの子であつて、亡バイオレツトのそれぞれ甥、姪にあたる。

(六) 法令二五条は、相続は被相続人の本国法に依ると規定しており、亡バイオレツトの本国であるデンマークの相続法によると、親、子、配偶者なき場合は、兄弟姉妹が相続人となり、兄弟姉妹が相続開始に先だつて死亡した場合にはその子が代つて代襲相続をすることとなつている。

(七) したがつて、その相続分は、原告ソフイア・クレア・リーと原告ジヨセフイーヌ・エム・バナーがそれぞれ四分の一づつ、原告キヤロル・ブラウンと原告マーチン・フイリツプ・ハルベルグがそれぞれ八分の一づつ、原告セブ・ルフイオ、被告イブ・サルター、原告ヴアル・シー・ラフ、原告イヴオンヌ・スローンがそれぞれ一六分の一づつとなり、原告らは右相続分にしたがつて後記4の(一)の(1)、(2)及び(三)の(1)の損害賠償債権を相続により取得した。

4  損害

(一) 逸失利益

(1) 亡バイオレツトは明治四三年(一九一〇年)一〇月二五日生れの死亡時六五歳で、その平均余命は一六・一八年であり、死亡当時アメリカ銀行東京支店に秘書として勤務し、月額金一八万五〇〇〇円の給料を得ていたが、本件事故によつて死亡しなければなお余命年数の半分にあたる八年間は就労可能であつた。その間の逸失利益は、生活費として三割(姉である原告ソフイア・クレア・リーを扶養していた)、またホフマン方式によつて中間利息をそれぞれ控除し、死亡時の現価を求めると、その価額は金一〇二三万八六八四円となる。

(2) また同女は本件事故後死亡までの六か月間の給料合計金一一一万円を失つたが、そのうち金九九万一七六〇円は受領ずみであるから、残額は金一一万八二四〇円である。

(二) 葬儀費用

原告らは、昭和五一年五月三〇日、同女の葬儀を行なつたが、その経費として金四〇万円を要した。

(三) 慰藉料

(1) 亡バイオレツトは、本件事故により昭和五〇年一一月二二日から昭和五一年一月一三日まで五三日間入院し、その後通院、そして同年五月二八日に再入院し、翌日死亡したもので、その間の同女の精神的苦痛に対する慰藉料は金一〇〇万円が相当である。

(2) 原告ソフイア・クレア・リーは、亡バイオレツトの姉で、昭和二六年(一九五一年)七月三〇日にともに来日して以来、二人で生活し、特に同原告が昭和三三年(一九五八年)に仕事をやめてからは亡バイオレツトに扶養されてきたもので、異国での唯一の身内を失つた同原告の精神的苦痛は大きく、その慰藉料は金一〇〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

原告らは本訴の提起を原告代理人に委任し、その報酬として金二〇〇万円を支払うことを約した。

よつて、原告らは、被告らに対し各自各原告に対する請求の趣旨記載の各金員及びこれに対する訴状送達の日以後である昭和五一年一二月九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の(一)のうち、原告ら主張の日時場所で、被告藤島実運転の被告車が歩行中の亡バイオレツトに右自動車を衝突させ、同女に対し左大腿骨転子間骨折の傷害を負わせたことは認めるが、事故の態様については争う。

2  同1の(二)の事実のうち、入・転院の事実及び亡バイオレツトが主張の日時場所で急性腎不全で死亡したことは認めるが、その余の事実は争う。

3  同1の(三)の事実のうち、死亡診断書に原告ら主張のとおりの記載があること、亡バイオレツトが二〇年間糖尿病を患つていたことは認めるが、同女の糖尿病性腎症の発病が死亡前四〇日であり、本件事故が右糖尿病性腎症をひき起す因子となつたことはいずれも否認し、その余の事実は争う。

同女は、本件事故前二〇年間も糖尿病を患つて動脈硬化症が認められ、かつ、本件事故前の昭和五〇年四月ころから動脈硬化性パーキンソニスムになり、手足がよく動かないで身体の運動に不自由をきたしていたほどであるから、本件事故前から糖尿病性腎症になつていたことは明らかである。しかも昭和五一年一月一三日の退院時の検査結果では、入院中の糖尿病の治療効果があがつて、尿に糖は出ておらず、血糖も正常範囲を示していた。ところが同年四月下旬国際聖母病院で再び検査を受けたときは血糖が高く、糖尿病はよくコントロールされておらず血圧が高く蛋白も出ており、右悪化は右同女が食餌療法を守らなかつたためである。要するに、同女は本件事故によつて糖尿病性腎症が悪くなつて急性腎不全となつたものではなく、同女の死亡と本件事故との間に因果関係はない。

4  同2の事実のうち被告車が被告工藤幸一の所有であることは認めるが、被告藤島実に前方不注視の過失があつたことは争う。

5  同3の(一)ないし(七)の事実はいずれも不知。

6  同4の(一)の(1)の主張は争う。亡バイオレツトの就労可能年齢は六七歳までで、生活費も四割とみるべきであり、中間利息の控除もライプニツツ方式によるべきである。

同(2)の事実は不知。

同(二)の事実は不知。

同(三)の(1)の事実のうち、亡バイオレツトが本件事故により昭和五〇年一一月二二日から昭和五一年一月一三日まで五三日間入院したこと、同年五月二九日死亡したことは認めるが、その余の事実は不知、また慰藉料額は争う。

同(2)の事実のうち、同原告が亡バイオレツトの扶養を受けていたことは認めるが、その余の事実は不知、同原告の慰藉料請求権の存在は争う。

同(四)の事実は不知。

三  抗弁(過失相殺)

1  被告藤島は被告車を運転し、本件交差点で右折するに際し、交差点の約二〇メートル手前で右折の方向指示燈をつけ、交差点入口の道路中央線に寄つて一旦停止し、対向車両約七両の通過を待つたうえ時速約一五キロメートルで右折進行した。

2  亡バイオレツトは四谷見附方面から市ケ谷方面に向かつて道路左側の歩道を歩いてきて、本件交差点の三栄町に通ずる道路を横断しようとしたのであるが、同交差点は信号機による交通整理が行われておらず、また右同女が横断しようとした道路には横断歩道が設置されていないのであるから、同女としては左右の交通に注意しながら横断すべきであるのに、折柄降雨中で右手に傘をさし、左右の交通に注意をせずに横断したため、衝突寸前まで本件事故車両に気づかなかつたものである。

右のように本件事故の発生については右同女の過失も一因を成しているから損害額の算定にあたつてはこれを斟酌すべきである。

なお被告らは、亡バイオレツトの治療費金一〇六万二〇三〇円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

過失相殺の主張については争う。なお被告らが治療費として主張の金額を支払つたことは認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告ら主張の日時場所において被告藤島実運転の被告車が亡バイオレツトに衝突し、同女に対し左大腿骨転子間骨折の傷害を負わせたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第二号証、乙第三、第四号証、第五号証の一、二、本件事故現場の写真であることに争いのない乙第一四号証の一、二及び被告藤島実本人尋問の結果を総合すると、右事故は、被告藤島が被告車を運転し、幅員一六・二メートルの外蒙通りを市ケ谷方面から進行してきて本件交差点にさしかかり、同交差点において幅員七・八メートルの三栄町方面に通ずる道路に向かつて右折進行すべく、交差点手前の道路中央線附近で一時停車し、対向車両の通過を待つたうえ、時速約一〇キロメートルで右折を開始したが、たまたま被告車の前方を右から左へ横断しようとしていた老人が立止つてくれたので、そのまま右折進行を続けたところ、被告車の直前を左から右へ雨のため傘をさして横断しようとしていた亡バイオレツトに気づき、直ちに制動の措置をとつたが間に合わず、同女に衝突するに至つたこと、被告藤島としては、右折開始前に一応進行方向前方の安全は確認したが、右交差点に向かつて歩行してきた亡バイオレツトがたまたま電柱か街路樹の陰になつたため気づかず、右折開始後も右方の老人に気をとられ、左方の安全確認を尽さなかつたことが、それぞれ認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によると、本件事故は被告藤島の前方の安全不確認という過失が原因を成しているものといわざるを得ない。

被告工藤幸一が被告車の所有者であることは同被告の認めるところであり、他になんらの主張立証もないから、同被告は自動車損害賠償保障法三条にいう運行供用者というべきである。

したがつて、被告藤島は民法七〇九条により、被告工藤幸一は自動車損害賠償保障法三条によりそれぞれ右事故によつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

二  ところで、亡バイオレツトが昭和五一年五月二九日急性腎不全で死亡したことは当事者間に争いがない。

原告は、本件事故と右死亡との間に因果関係が存する旨主張するが、これを認めるに充分な証拠はなく、かえつて成立に争いのない甲第六号証、乙第一〇ないし第一三号証、証人兼鑑定人納賀節二、同乕田主一の各供述によると、亡バイオレツトにはかなり以前から糖尿病の持病のほか動脈硬化症があり、本件事故当日米川外科医院を経て都内新宿区中落合の国際聖母病院に入院したが、その当時かなりの程度の糖尿病のほかパーキンソニスム、糖尿病性腎症を患つており、同病院においてその後昭和五一年一月一三日まで入院し、その間外傷の治療とともに糖尿病に対する治療を受けたが、退院時には尿中に糖も出ず、血糖も正常範囲で、完全にコントロールされていたこと、ところが同女はその後同年四月中旬から五月下旬にかけて同病院に外来として診察治療を受けにきたが、そのときには血圧、血糖がともに高く、よくコントロールされておらず、腎臓の方も尿中に蛋白が出て病状が進んだ状態であり、動脈硬化性パーキンソニスム、糖尿病、糖尿病腎症と診断されたこと、そして五月二八日急性腎不全で同病院に救急入院し、翌二九日死亡したものであること、同女の腎臓の悪化が受傷及び手術によるものとの可能性が考えられないことはないがその証明はなく、一応同女の場合は糖尿病のため腎臓の動脈硬化が起つて糖尿病性腎症となり、その結果腎不全となつたもので、糖尿病の悪化も同女が前記退院後食餌療法を守らなかつたためであると考えられることがそれぞれ認められ(他に右認定を覆えす証拠はない)、右事実関係のもとでは、本件事故と亡バイオレツトの死亡との間には相当因果関係がないものと認めざるを得ない。

三  そこで損害について判断する。

1  原告らは、亡バイオレツトの死亡による逸失利益及び葬儀費用の賠償を求めるが、本件事故と同女の死亡との間に因果関係が認められないことは前説示のとおりであるから、右請求はその理由がない。

2  次に亡バイオレツトの死亡までの間の逸失利益の請求についてであるが、成立に争いのない甲第七号証の一、二、同第九号証及び弁論の全趣旨によると、亡バイオレツトは本件事故当時、アメリカ銀行東京支店に秘書として勤務し、月額金一八万五〇〇〇円の給与を得ていたが、本件事故による受傷のため事故後死亡まで右勤務先を欠勤し、その間給与を受け得なかつたことが認められる。したがつてその間六か月間の同女の逸失利益は合計金一一一万円となるところ、うち金九九万一七六〇円を受領したことは原告らの自陳するところであるから、その残額は金一一万八二四〇円となる。

3  次に、亡バイオレツトの受傷による慰藉料であるが、亡バイオレツトが本件事故当日から昭和五一年一月一三日まで本件事故による受傷治療のため入院したことは当事者間に争いがなく、また前記二において掲記の各証拠によれば、その間手術を受けたことも認められ、それらの点及びその他諸般の事情を考療するならば、同女の前記受傷による慰藉料は金六〇万円が相当である。

また原告ソフイア・クレア・リーは、亡バイオレツトの死亡による慰藉料の賠償を求めているが、本件事故と右亡バイオレツトの死亡との間に因果関係のないことは前説示のとおりであり、また亡バイオレツトの受傷の程度が前叙のとおりである以上近親者固有の慰藉料は否定せらるべきであるから、右請求はその余の点を判断するまでもなく、その理由がないものというべきである。

四  次に被告らの過失相殺の主張について判断する。

本件事故の態様については前記一において認定したとおりであり、亡バイオレツトにも安全確認を怠つた過失のあることは否定できない。しかしながらもともと本件事故は右折車が横断歩行者に衝突した事故であるうえ、右事故の態様特に当時雨降りで右同女が傘をさして歩行していたこと、被告車が幅員一六・二メートルの道路から幅員七・八メートルの道路に右折しようとしていたものであることなど諸般の事情を考慮するならば、本件における損害額の算定にあたつて亡バイオレツトの過失を斟酌するのは相当でないというべきである。

五  次に原告らの身分関係であるが、成立に争いのない甲第九号証、乙第四号証及び弁論の全趣旨によると、亡バイオレツトは一九一〇年(明治四三年)一〇月二五日生れ、国籍デンマークの女性であるが、同女は結婚しておらず、したがつて子もなく、また両親も同女の死亡前既に死亡しており、同女の兄弟姉妹としては、姉の原告ソフイア・クレア・リー、兄の亡カール・ロルフ・ハルベルグ・姉の原告ジヨセフイーヌ・エム・バナー、姉の亡シリア・ルフイオがいたが、右カール・ロルフ・ハルベルグ、シリア・ルフイオは亡バイオレツトの死亡前既に死亡し、右カール・ロルフ・ハルベルグにはその子である原告キヤロル・ブラウン、同マーチン・フイリツプ・ハルベルグが、右シリア・ルフイオにはその子である原告セブ・ルフイオ、同イブ・サルター、同ヴアル・シー・ラフ、同イヴオンヌ・スローンのいることがそれぞれ認められる。

しかして、法令二五条によると、相続は被相続人の本国法によるべきところ、成立に争いのない甲第八号証の一によると、デンマーク国の相続法では、被相続人に子、配偶者がなく、両親も死亡しているときには、兄弟姉妹が均等な割合で相続し、右兄弟姉妹が相続の開始前に死亡しているときはその者の子が代つて均等の割合で相続することと定められていることが認められ、そうだとするならば、原告ソフイア・クレア・リーと原告ジヨセフイーヌ・エム・バナーはそれぞれ四分の一づつ、原告キヤロル・ブラウンと原告マーチン・フイリツプ・ハルベルグはそれぞれ八分の一づつ、原告セフ・ルフイオ、同イブ・サルター、同ヴアル・シー・ラフ、同イヴオンヌ・スローンはそれぞれ一六分の一づつ前記三の2、3の亡バイオレツトの逸失利益及び慰藉料請求権を相続したものというべきである。

六  次に弁護士費用の点であるが、原告らが本訴の提起を原告代理人らに委任したことは訴訟上明らかであり、その報酬支払の約束をしたことは容易に推認できるところであるが、本件訴訟の難易等諸般の事情を考慮するならば、本訴において弁護士費用として賠償を求め得るのは金一五万円が相当である。

七  以上の次第で、被告ら各自に対し、原告ソフイア・クレア・リー及び原告ジヨセフイーヌ・エム・バナーは各金二一万七〇六〇円、原告キヤロル・ブラウン及び原告マーチン・フイリツプ・ハルベルグは各金一〇万八五三〇円、原告セブ・ルフイオ、同イブ・サルター、同ヴアル・シー・ラフ及び原告イヴオンヌ・スローンは各金五万四二六五円の損害金及び右各金員に対する本件訴状送達後である昭和五一年一二月九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払請求権があり、右原告らの本訴請求は右の限度において理由があるからこれを正当として認容し、その余の請求については失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、九三条一項本文、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

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